過労死等防止対策推進全国センター

代表あいさつ

これまでにも増してこれからが大変です

過労死等防止対策全国センター 代表幹事
森岡 孝二(関西大学名誉教授)

いよいよ3日後の11月1日から過労死等防止対策推進法(略称・過労死防止法)が施行され、最初の過労死等防止啓発月間が始まります。

ここにいたって三つのことに感慨を覚えています。

第一は、法の制定がもつキャンペーン効果の大きさです。今日の集会にもメディア関係者が多数こられています。啓発月間の11月に入ると、テレビや新聞などの過労死と防止法関連の報道が一段と増えるものと思われます。私自身、6月20日の参議院本会議において防止法が成立してからは、過労死に関する講演や執筆やインタビューが増え、周囲に「過労死したらアカンで」と言われる状態です。

第二は、法がもつ行政を変える力です。法の制定にともない厚生労働省に「過労死等防止対策推進室」が設置されました。過労死弁護団が過労死110番を実施する11月1日に、厚労省も「過重労働解消相談ダイヤル」を実施します。11月14日には厚労省主催で、本センターが協力して、過労死啓発シンポジウムが開催されます。また11月に予定されている全国各地の同趣旨のシンポジウムでも、各都道府県労働局の後援や協力が得られることになっています。

第三は、過労死防止運動の質的な変化です。これまでは過労死家族の会と過労死弁護団が厚生労働省に対して「暖簾に腕押し」のような要請行動をしてきました。これからは、労災認定は別にして、防止運動と啓発運動については、政府・厚労省と民間団体が連携・協力して進めことになります。来年度からは一定の予算もつくことになっています。過労死の総合的な調査研究が国の責任で行われることも大きな変化です。

感慨を覚えると言っても必ずしも嬉しいことばかりではありません。制定するまでの運動も大変でしたが、制定後の運動はもっと大変です。このセンターの役割は制定された過労死防止法の実効的な履行と、防止対策の効果的な実施を確かなものにする役割を担っています。センター自体が民間団体として、厚労省と協力して、企業や学校や市民に対して過労死防止の啓発活動を行わなければなりません。来年6月には、過労死の調査研究を担う学際的・分野横断的な「過労死防止学会」(仮称)の結成が予定されており、それとの協力・共同も大きな課題です。

わたしたちは本日を新たな出発点に、過労死のない社会の実現をめざす活動を進めていきます。この活動に多くの人びとが合流し、過労死ゼロの波が大きなうねりになることを願っています。

法律を実効性あるものに

過労死等防止対策全国センター 代表幹事
弁護士 川人 博(過労死弁護団全国連絡会議 幹事長)

過労死を防止するために国を挙げて取り組むことを定めた法律の制定は、働く者のいのちと健康を守るうえで歴史的な意義をもつものといえる。

1988年以降、過労死という言葉が内外にひろまり、その深刻な実態が明らかにされるようになってからも、政府の対応は冷淡であった。90年代前半頃までは、日本の労働行政は、過労死という概念自体を否定し、そのようなものは日本には存在しないとまでいっていた。こうした歴史的な経緯を考えれば、過労死という言葉を法律の名称に使用し、かつ、過労死を防止することを「国の責務」として位置づけたことの意義は、はかり知れないほど大きい。

大事なのは、この画期的な法律を、今後効果的に活かしていくことである。

まず、同法で決められた主要な四項目(①調査・研究、②啓発活動、③産業医等人材育成、④民間活動の支援)をただちに実践していくことが大切である。

そして、この法律では労働時間規制等に関しては直接触れられていないが、同法に基づく過労死の調査分析、啓発活動等を踏まえて、今後、必要な措置(法令改正の検討を含む)を講じていくことが求められている。

労働時間規制をなくす方向での「改革」は、過重労働を一層深刻なものとし、過労死・過労自殺を防止するどころか、促進することになる。法令改正は、長時間労働をはじめとした過重労働を規制する方向においてこそ、なされるべきである。

過労死防止法制定のためにおおいなる力を発揮したご遺族をはじめ、支援してくださった方々のご尽力・ご協力に対し心より感謝するとともに、この法律を実効性あるものにしていくために、引き続き、共に活動を続けていきたいと思う。

遺族が願う「過労死のない社会の実現をめざして」ともに頑張りましょう!

過労死等防止対策全国センター 代表幹事
寺西 笑子(全国過労死を考える家族の会 代表)

「karoshi」が国際語になった1989年に東京・名古屋・大阪など各地域に「過労死を考える家族の会」が結成され、1991年11月22日勤労感謝の日を前にして「全国過労死を考える家族の会」が結成されました。以来毎年この日には、全国の会員が東京へ集まり、厚生労働省や地方公務員災害基金本部への要請をおこない、会員の早期労災認定と過労死防止策を求めています。

労働基準法では1日8時間、週40時間を超えてはならないと明記しています。例外として、労基法36条に基づく労使協定(36協定)を結べば際限なく労働者を働かすことができます。こうして一日の労働時間の上限が存在しないため長時間労働が当たり前になり、私たちの家族は朝早くから夜遅くまで仕事に追われ、ある日突然に過労死しました。私たちは労災認定をもとめていく中で、過労死を発生させた職場環境の実態が明らかになり、大企業においても労働基準法や労働安全衛生法がまったく機能していないことが分かりました。時間外労働が過労死の認定基準となる月100時間を超えても違法にならないこと自体が矛盾しています。過労死は個人の責任ではなく、社会のしくみの問題であり労働法制と密接に関係していることに気づかされました。

家族の会は増え続ける過労死をなくしたい思いから、声をあげ立ち上がりました。過労死防止実行委員会が掲げる国民的運動が成功し、大きな支えを頂ながら遺族の声を国会へ届けることもできました。全国の様々な立場で連携してくださった皆様の総意が結実し、念願の「過労死防止法」は全会派一致でついに可決成立することができました。

私たち、法律を創ることへの産む苦しみを味わったものとして、今やるべきことは法律に魂を入れ実効性のある現実的な過労死防止対策を創っていくべきではないかと考えます。それには、過労死防止全国センターに結集する皆さま方との連携をさらに深めることが求められます。過労死の生き証人としての役割を果たし、増え続ける過労死に歯止めをかけ、遺族が願う過労死のない社会の実現をめざして励む所存です。ともに頑張りましょう!

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