過労死等防止対策推進全国センター

過労死考えるシンポジウム 電通元社員の母親が講演 NHK 2016/11/9

過労死をなくすための対策について考えるシンポジウムで、去年、過労のため自殺した大手広告会社、電通の元社員、高橋まつりさんの母親が講演し、「経営者は大切な命を預かっているという責任感を持って本気で改革に取り組んでもらいたい」と訴えました。

このシンポジウムは、今月の過労死防止月間に合わせて厚生労働省が全国各地で開いているもので、東京の会場では、電通に去年入社し過労のため自殺した高橋まつりさんの母親の幸美さんが講演しました。

幸美さんは「娘は『国を動かすようなコンテンツを社会に発信したい』と希望に満ちて入社しました。『年末には実家に帰り一緒に過ごそう』と言っていたのに、クリスマスの朝、『さようなら、ありがとう。人生も仕事もすべてつらいです』という言葉を残して亡くなった」と話しました。
そして、「娘が描いていた夢もはじけるような笑顔も永久に奪われてしまった。経営者は社員の大切な命を預かっているという責任感を持って本気で改革に取り組んでもらいたい。政府にも国民の大切な命を守る日本に変えてもらうことを強く望みます」と訴えました。

電通では、3年前に亡くなった男性社員も、ことし過労による労災と認められたほか、おととしと去年、大阪の関西支社と本社で社員に違法な長時間労働をさせていたとして労働基準監督署からそれぞれ是正勧告を受けていて、厚生労働省は7日、電通を捜索し、労働基準法違反の疑いで捜査しています。

ツイッターで過酷な職場環境を訴え

高橋まつりさんは、友達などが見ることができるツイッターで、みずからの過酷な職場環境について訴えていました。
まつりさんは、電通でインターネットの広告を担当する部署に配属され、試用期間が終わり、社員として正式に採用された去年10月以降、任される仕事の量が急に増えたといいます。

10月に入ってすぐツイッターに、「働くの辛すぎでは」、「神様会社行きたくないです」などと書き込み、仕事のつらさを訴えていました。
10月中旬には、「休日出勤えらいなぁとか思って出社したけど、うちの部に限っては6割出社してた。そりゃ過労で死にもするわ」とか、「誰もが朝の4時退勤とか徹夜とかしてる中で新入社員が眠いとか疲れたとか言えない雰囲気」などと過酷な職場の様子をつづっています。
10月末、まつりさんは、上司から言われたということばも書き込んでいました。「君の残業時間の20時間は会社にとって無駄」、「会議中に眠そうな顔をするのは管理ができていない」、「髪ボサボサ、目が充血したまま出勤するな」、「今の業務量で辛いのはキャパがなさ過ぎる」。

11月に入ると、「土日も出勤しなければならないことがまた決定し、本気で死んでしまいたい」とか、「朝起きるということがとにかく嫌いすぎる」などと出社を強く拒絶するような書き込みもするようになります。
そして、亡くなる直前の去年12月には、死を意識したような書き込みが増えていきます。「毎日20時間とか会社にいると、もはや何のために生きているのかわからなくなって笑けてくる」、「死にたいと思いながらこんなストレスフルな毎日を乗り越えた先に何が残るんだろうか」、「目も死ぬし心も死ぬし、なんなら死んだ方がよっぽど幸福なんじゃないかとさえ思って」などとつづっていました。
そして、12月25日、まつりさんは、住んでいた社員寮の4階から飛び降りて命を絶ちました。

親しい編集者は

高橋まつりさんが大学時代にアルバイトをしていた週刊誌で、当時、副編集長をしていた佐々木広人さんは、ツイッターの書き込みをまつりさんが亡くなったあとに知ったということです。
佐々木さんは「つらくて全部見られなかった。自分の中では天真らんまんで前向きな彼女しか知らないので、彼女をここまで追い詰めるって何があったんだと、今も頭の中を駆けめぐっている」と話しています。

佐々木さんは、みずからも7年前に過労で体調を崩した経験があることから、まつりさんが就職をする前、「知らず知らずに自分の体がむしばまれることもあるので、何かあったときにはSOSを出すように」とアドバイスしていたといいます。

まつりさんにツイッターの使い方を教えたのも佐々木さんだということで、「前向きな情報伝達ツールとして教えたものが、亡くなるまでの半年くらい彼女のSOSになっていた。気付いてあげられなかったことに自責の念がある。妹分みたいな子だったし花嫁姿も見たかった。上司とかマネジメントの環境も含めて、彼女の置かれていた状況をきっちり精査して、過労自殺を日本中からなくしてほしい」と話していました。

幸美さんの講演内容

高橋まつりさんの母親の幸美さんは、およそ10分にわたって講演しました。その主な内容です。
「娘は昨年12月25日、会社の借り上げ社宅から投身し、みずからの命を絶ちました。3月に大学を卒業し、4月に新社会人として希望を胸に入社してからわずか9か月のことでした。早い時期に内定をもらい大手広告代理店に就職した娘は、『日本のトップの企業で国を動かすようなさまざまなコンテンツの作成に関わり、自分の能力を発揮して社会に貢献したい』と希望に満ちていました。5月になり、インターネット広告の部署に配属され、『夜中や休日も仕事のメールが来て対応しないといけない』と言っていました。夏ごろからたびたび深夜まで働き、週明けに上がってきたデータを分析し、報告書を作成し、毎週クライアントに提出する仕事に加え、自宅で徹夜で論文や企画書を作成していました。10月に本採用になると土日出勤や朝5時に帰宅という日もあり、『こんなにつらいとは思わなかった。今週10時間しか寝ていない。休職するか、退職するか自分で決めるのでお母さんは口出ししないで』と言っていました。11月になり25年前の(電通の)過労自殺の記事を送ってきて『こうなりそう』と言ってきました。私は『死んじゃだめ。会社を辞めて』と何度も言いました。(そのころのまつりさんの)SNSにはパワハラやセクハラで個人の尊厳を傷つけられた様子も書かれていました。(まつりさんは)『上司に異動できるか交渉してみる。できなかったら辞める』と言っていましたが、『仕事を減らすのでもう少し頑張れ』と上司から言われたようです。12月には、娘を含め部署全員に36協定の特別条項が出され、深夜労働が続きました。そのうえ、数回の忘年会の準備にも土日や深夜までかかりきりになりました。『年末には実家に帰るから一緒に過ごそうね』と言っていたのに、クリスマスの朝、『大好きで、大切なお母さん。さようなら、ありがとう、人生も仕事もすべてがつらいです。自分を責めないでね、最高のお母さんだから』という言葉を残して亡くなりました。社員の命を犠牲にして業績を上げる企業が日本の発展をリードする優良企業と言えるでしょうか。(電通の)有名な社訓には『取り組んだら放すな、殺されても放すな、目的完遂までは…』とあります。命より大切な仕事はありません。娘の死はパフォーマンスでもフィクションでもありません。現実に起こったことなのです。娘が描いていたたくさんの夢も娘のはじけるような笑顔も永久に奪われてしまいました。結婚して子どもが産まれ続くはずだった未来は失われてしまいました。私が今、どんなに訴えかけようとしても大切な娘は二度と戻ってくることはありません。手遅れなのです。自分の命よりも大切な愛する娘を突然亡くしてしまった悲しみと絶望は失ったものにしかわかりません。だから同じことが繰り返されるのです。今、この瞬間にも同じことが起きているかもしれません。娘のように苦しんでいる人がいるかもしれません。過労死、過労自殺は偶然起きるのではなくいつ起きてもおかしくない、起きるべくして起きているのです。経営者は社員の大切な命を預かっているという責任感を持って、本気で改革に取り組んでもらいたい。伝統ある事業の体質や方針は変えられるものではない。しかし、残業時間の削減を発令するだけでなく、根本からパワハラを許さない企業風土と業務の改善に取り組んでもらいたいと思います。残業隠しが再び起こらないよう、ワークシェアや36協定の改革、インターバル制度が導入されることを希望します。そして政府には国民の命を犠牲にした経済成長第一主義ではなく、国民の大切な命を守る日本に変えてくれることを強く望みます」