裁量労働制拡大法案の再上程に反対する声明
前提となる調査データが撤回された裁量労働制拡大法案の再上程に反対します
2018年2月23日
過労死防止全国センター
代表幹事 川人 博、寺西 笑子、森岡 孝二
当センターは、2014年6月に過労死等防止対策推進法(過労死防止法)が成立したことを受けて、全国過労死を考える家族の会や過労死弁護団全国連絡会議と連携し、過労死(過労自殺を含む)の防止に取り組んでいる民間団体です。2015年3月には、過労死と過重労働を助長するという懸念から、①「高度プロフェッショナル制度の創設」と②「企画業務型裁量労働制の拡大」に反対する声明を発表し、同年4月に①と②が国会上程されて以降は、関連法案の審議の行方を見守ってきました。
昨年9月、③「時間外労働の上限規制」の法案骨子がまとまりました。当センターはこれについても、過労死に関わる脳・心臓疾患の過半が100時間未満の時間外労働で起きているという現実に照らして規制の名に値しないこと、および36協定の特別条項における時間外労働の限度を引き上げる恐れが大きいことから反対してきました。昨年10月の衆議院の解散・総選挙により①と②は廃案となりましたが、現在開会中の通常国会で、あらたに①・②と③が他の「働き方改革」の関連項目と一括されて国会審議に付されようとしています。当センターはこれについて、上記の経緯から深く憂慮してきました。
くわえて、ここ数日の国会論議において、企画業務型裁量労働制の営業職への拡大案の検討のために政府・厚労省が示したデータが、本来比較できない数値を比較していたことが明らかになりました。問題のデータでは、1日の労働時間は裁量制が9時間16分、一般が9時間37分となっており、これではあたかも労働時間の規制が弱く賃金不払残業を誘発しやすい裁量労働制の労働者のほうが一般労働者より労働時間が短いかのように見えます。
この比較は、一般労働者については1ヶ月のうち「残業が最長の1週間」の数値、裁量制の人については通常の平均的な1週間の数値を元にしている点で、まったくでたらめです。
さらに、咋日の報道では、新たに調査データの中から87事業場で計117件の異常値が見つかったと伝えられています。当センターは、このように裁量労働制拡大の国会審議の前提となる根拠が崩れた以上、政府は裁量労働制の拡大案の再上程を断念すべきだと考えます。
2014年6月に全会一致で成立した過労死防止法は、過労死等の実態の調査研究を国の責務としています。これにしたがえば、労働時間制度改革に当たっても調査研究を踏まえるべきですが、この間の経緯をみると、過労死等の実態の調査研究を脇に置いたまま泥縄式に高プロ制の創設、裁量労働制の拡大、および時間外労働の上限規制をまとめたと言わざるをえません。
裁量労働制の対象者の多くは、実際には業務にほとんど裁量性がなく、過大な仕事量を与えられて、みなし労働時間を大きく超える長時間の拘束的勤務を余儀なくされています。これについて政府・厚生労働省が十分な調査をしないまま法案をまとめ、立法化を強行することは、過労死防止法にも反し、許されるものではありません。
報道によれば政府は、裁量労働制のデータ問題をめぐる今回の紛糾を受けて、対象拡大の施行を1年延期しようとしているようですが、法案の審議のための重要データが間違っていたとして撤回された以上、裁量労働制の拡大を含む労働時間制度改革の関連法案の国会上程を取り止め、十分な調査研究を行ったうえで最初からやり直すべきです。
以上